第2話後編 アフロディスアスの決戦

第2話後編 アフロディスアスの決戦

第16章 無血開城

 僕は、マンカファース以外の貴族たちが揃った後、約1万9千の軍を率いてミレトスから出陣し、フィルズ・ベイの本拠地であるミラスに向かった。その途中、僕はミラス近辺で情報収集や内応工作などの任務を与えていた、ニケフォロス・スグーロスに面会した。なお、ニケフォロス・スグーロスとは、読者さんの大半はもう覚えていないかも知れないが、アレクシオス3世の元側近で、僕に投降したすぐ後にブロワ伯ルイの許に使者として赴き、ルイとその軍勢を上手く騙した人物である。
 ニケフォロス・スグーロスは、ヨーロッパ側で謀反を起こして勝手に皇帝を名乗り、ペロポネソス半島に自らの勢力を築いていたレオーン・スグーロスという人物の息子であるが、聖なる都から逃亡したアレクシオス3世、すなわちイレーネとプルケリアの父親は、一時レオーン・スグーロスと同盟を結んでラテン人に対する抵抗を企てたことがあり、その縁でニケフォロスはアレクシオス3世の側近になったのだという。もっとも、その後レオーン・スグーロスは、テッサロニケ王ボニファッチョの軍勢に敗れ、現在はアクロコリントスという砦に立て籠もって最後の抵抗を続けているらしいが、海を隔てた向こう側の話なので、現時点ではとてもレオーン・スグーロスを助けに行く余裕などは無い。
 彼の出自の話はこのくらいにして、とにかく僕はまだ20代の若者であるこのニケフォロスにかなり謀略の才能があると見たので、冬の間に彼をミラス方面に送り込み、情報収集や内応工作などの任務を行わせていたというわけである。
「殿下、お久しゅうございます」
「ニケフォロス、首尾の方はどうであった?」
 この後、僕はニケフォロスからミラスとその周辺地域の情勢について報告を受けた。そして、ひととおり報告を受けた後、
「つきましては、イブラヒムの息子メンテシェが我が軍に投降したいと申しておりますので、お目通りをお願いしたく存じます」
「相分かった」
 メンテシェは、まだ20代ほどの若者ながら、なかなか良い面構えをしていた。トルコ人なので頭にターバンを被り、明らかに異国人という格好をしていたが、別にそんなことは気にしない。
「殿下、お初にお目にかかります。イブラヒムの息子メンテシェでございます。憎き父の仇フィルズを討つため、我が配下2千の兵と共に殿下にお仕えさせて頂きたく存じます」
「承知した。メンテシェ殿、配下の軍と共にそなたを受け容れよう。これからは帝国の将として、その働きを期待しておるぞ」
 こうして、メンテシェの軍を配下に加えた僕はそのままミラスに向かい、ミラスの町は戦わずして城門を開いた。フィルズの本拠地であったベチンの城はもぬけの空になっていたので、これも戦わずして占領した。ミラス陥落の報を聞いて、その北方を拠点にしていたトルコ人の小豪族ヒジール・ベイも、一族郎党を引き連れ僕に投降してきた。
 フィルズ・ベイが治めていたアジア南西部は、正教徒とイスラム教徒の割合が概ね半々くらいで、正教徒は迫害を受けつつ自らの信仰を守り続けていたが、これからは正教の信仰を迫害される心配はないということで、僕とその軍を解放者として迎え入れた。イスラム教徒たちも、従来どおりの信仰を維持することが認められ、正教への改宗を強要されることはないと分かると、大人しく僕の支配を受け容れた。
 こうして僕は、一戦も交えることなくフィルズ・ベイの治めていた領地をすべて接収し、ロードス島の対岸まで帝国の領土を広げ・・・
「みかっち、ちょっと待ちなさい!」
 テオドラが僕に文句を言ってきた。
「何? 君の働きもあって、アジア南西部の制圧は順調に進んでいるのに」
「あたしと読者さんを置き去りにして、勝手に話を進めないでよ! これからフィルズ・ベイと戦うんじゃなかったの? 一体どういう展開になってるのよ!」
「ああ、そういうことね」
 確かに敵側の動向については何も説明していなかったので、僕はニケフォロス・スグーロスから報告を受けた経緯について、テオドラに説明することにした。

「まず、先日説明したとおり、ミラスの領主フィルズ・ベイは、叔父のイブラヒムと仲が悪かった。そして僕は、ニケフォロス・スグーロスを送り込み、密かに両者の対立をさらに煽らせていた。ここまではいいね?」
「まあ、そこまでは大体聞いてるわ」
「その後、僕はニケフォロス・スグーロスを通じて、イブラヒムを僕に内応させようとしたが、イブラヒムはフィルズ・ベイと仲が悪かったものの、彼を裏切って僕に内応する気までは無かった。そこへ、テオドラがミラスに現れ、イブラヒムが僕に内応していると町中に触れて回った」
「・・・まさか、本当は内応なんかしてなかったの?」
「その噂を聞いたフィルズ・ベイは、この噂を根拠にして、従来から自分をないがしろにして国政を牛耳ろうとしていた、邪魔者の叔父イブラヒムを殺害することに決めた。しかし、イブラヒムもその噂を聞いて、自分に謀反の疑いをかけられていることは知っていたので、フィルズ・ベイによるイブラヒムの暗殺は失敗に終わり、その後ミラスでは僕の軍が接近しているにもかかわらず、フィルズ・ベイとイブラヒムとの間で血みどろの内戦が始まった」
「・・・」
「フィルズ・ベイは激戦の末、結局は暗殺という手段で何とかイブラヒムを討ち取ったが、イブラヒム派の兵士たちは無実の罪でイブラヒムを殺したフィルズ・ベイを深く恨み、生き残ったイブラヒムの息子メンテシェを自分たちのリーダーとし、僕の許に投降してきた」
「それが、この前投降してきたトルコ人たちというわけね」
「そのとおり。フィルズ・ベイは何とか邪魔者だったイブラヒムを打倒したものの、自軍の4割近くを占めていたイブラヒム派の兵士たちをそっくり失ってしまい、しかもイブラヒム派との戦いで手持ちの軍も大きな被害を受け、自分の使える兵力は2千人を割るまでになってしまった。ミラスの住民たちも、僕の率いる2万近くの軍勢が接近しているのに、叔父のイブラヒムと自ら内戦を引き起こしたフィルズ・ベイの愚かさに呆れ、防衛に協力しようとしなかった。残された手持ちの兵力だけでは到底勝ち目がないと悟ったフィルズ・ベイは、城を捨てて残された一族郎党を引き連れ、主君であるトルコ人のスルタン、カイ=ホスローがいるイコニオンに向かって落ち延びて行った、というわけ。めでたしめでたし」
「めでたしめでたし、じゃないわよ! そもそも何で、あたしにイブラヒムが内応してるなんて嘘を付いたのよ!?」
「君の性格からして、僕が内通工作をしているという話を聞いたらおそらく全力で妨害しようとしてくるだろうから、先手を打って君に嘘の計画を教えた。どちらにせよイブラヒムの内通工作は既に失敗が明らかになっていたので、作戦を変えてイブラヒムが僕に内応しているという噂を流し両者を仲違いさせる計画に変更する予定だったんだけど、テオドラが僕の予想以上に、イブラヒムが僕に内応しているって噂を熱心に広めてくれたんで、僕たちの手間が省けたよ」
「・・・・・・」
「どうしたの? テオドラ」
「この卑怯者! あたしの奴隷の分際で、このあたしまで操って卑怯な計略の道具に使っていたっていうわけね! この鬼! 悪魔! 碇ゲンドウ! あんたは本当に、最も狡猾なギリシア人ね!」
「・・・その碇ゲンドウというのは、一体どこで覚えたの?」
「どうでもいいことを突っ込むんじゃないの! この生意気な奴隷には、このあたしがお仕置きを加えてあげプギャアアアアアアア!?」
 発狂して僕にグーで殴りかかろうとしたテオドラは、イレーネお手製の鉄壁防御ネックレスに攻撃を弾かれ、どうやら手を骨折したらしく、痛みで悲鳴を上げている。学習能力が無いのか、それとも怒りのあまりネックレスのことを忘れていたのかは知らないが、とりあえず僕は『治癒』の術でテオドラの手を治してあげた。
「うううううう、みかっちはどこまで卑怯なの? 直接攻撃が通用しないんなら、腹いせにこの近辺の町まとめて焼き払ってやるんだから!」
「そ、それだけは止めて! この近辺で何か攻撃しても構わないものは・・・」
 僕は急いで周囲を見回した。今ここにいる場所は、ロードス島に近い海岸付近である。そして海には、何百隻もの大船団がロードス島の基地へと向かっていた。船団には数えきれない数の、大きな獅子の紋様を描いた旗がはためいている。あれは間違いない、敵であるヴェネツィア人の船団だ。
「テオドラ、そんなに腹いせがしたいなら、あの向こうにいるヴェネツィア人の船団ならいくらでも焼き払っていいから。テオドラにとっても憎い敵でしょう?」
「・・・まあ、そのあたりで勘弁してあげるわ。あたしの活躍ぶり、とくとご覧なさい!」

 こうして、たまたま付近を通り過ぎていた不幸なヴェネツィア船団は、憂さ晴らしをしたいテオドラの標的にされることになった。突然の攻撃を受けたヴェネツィア船団は報復のためこちらに向かってきたが、テオドラ1人で何とかなりそうなので放置し、僕は天幕に戻り別の仕事をしていた。
 ところが夕方になると、テオドラが兵士たちの手によって担架で運ばれてきた。
「テオドラ、どうしたの!? 何があったの!?」
 僕がテオドラに声を掛けると、側についていたルミーナが代わりに説明してくれた。
「皇女様は、殿下が無理な命令をなさったせいで、神聖術の使い過ぎで気絶してしまわれたのですよ! いくら皇女様が天才術士でも、1人で何百隻もいるヴェネツィア船団を殲滅しろなんてあまりにも無茶過ぎます。もう少し皇女様をいたわって差し上げないと、このルミーナが皇女様に代わって、殿下にエッチなお仕置きをしちゃいますよ?」
「いや、僕は好きなだけ攻撃していいと言っただけで、殲滅しろとは一言も言ってないんだけど・・・。それとも、殲滅しなきゃいけない勢いでヴェネツィア船が攻めてきたの?」
「いえ、ヴェネツィアの船団は、途中で勝ち目がないと悟って退却を始めたのですが、ご自分の力に昂揚された皇女様は、珍しく呪文まで使って術の射程距離を伸ばし、逃げるヴェネツィア船を最後の一隻まで焼き払われ、それを見届けたところでパタリと倒れられました。殿下には、もう少し皇女様に気を遣って差し上げて頂かないと・・・」とソーマちゃん。
「姉上の奮戦ぶりは、まさに邪悪な妖気に取り憑かれ、荒れ狂うサラマンダーのようでありました。ご自分でそれを命じておきながら、結果を見もせずに放置された殿下には、さらに邪悪な妖気が漂っております。このテオファノが、妖気を祓って差し上げなければならないようです」とテオファノ。
 僕はこの3人娘に責められ続け、何となく釈然としなかったが、結局「分かったから。僕が悪かったから。今後は気を付けるから」と謝るしかなかった。その後テオドラは、魔力を回復させるため3日間の安静療養に入った。
 ・・・その夜、僕とイレーネはテオドラが眠っている天幕にこっそり入り込んだ。1人で数百隻ものヴェネツィア船団を壊滅させたテオドラの行為は奇跡と認定され、報酬として4個の神聖結晶が届けられたのだ。イレーネが使った4個の神聖結晶は同時に割れ、眠っているテオドラの身体は白く光った。これにより、テオドラの神聖術適性は96に上昇した。

第17章 武闘大会

 せっかく戦いに来たのに、出番がなくて不満を持て余しているのは、テオドラだけでは無かった。そこで僕は、ラスカリス将軍の発案により、ローマ軍の中で第一の猛者を決める武闘大会を開催することにした。寄せ集めでまだ言葉も十分に通じない外国人も多い兵士たちの結束を強めるには、こういうイベントも必要だろうと判断し、優勝者にはその武勇を称える勲章と、副賞としてジェノヴァ金貨10枚を用意した。なお、自国の金貨ではなくジェノヴァ金貨を使っているのは、ローマ帝国で発行しているノミスマ金貨の質が度重なる貨幣改悪で大きく低下しており、現在は財政に余裕が出来るまで、僕の命令でノミスマ金貨の発行自体を当面中止しているためである。
 参加者として、ビザンティオンの聖戦士ことテオドロス・ラスカリスが真っ先に手を挙げたので、彼の武勇を知っている古参の将兵たちはあまり参加しようとせず、最終的な出場者は8人といい感じに絞られた。この世界では、ゲームと異なり武将たちの能力が数値で見られるわけではないので、僕にとっても将兵たちの腕を見る良い機会だ。
 ルールは比較的簡単。徒歩で、それぞれ得意な武器を使って1対1で戦う。ただし、飛び道具の使用は禁止。相手に負けを認めさせるか、相手の武器を飛ばすか、相手を気絶させるなどして戦闘不能にすれば勝ち。一戦あたりの制限時間は20分。その間に決着が付かなかった場合、勝敗は観戦している将兵たちの声を聞き、最終的には僕が判定する。実戦ではないので武器の刃は落としてあるが、負傷者が出たときはいつでも治療できるようイレーネが待機している。
 武闘大会はトーナメント戦で、くじ引きの結果出場者の組み合わせは以下のようになった。

  Aグループ1  テオドロス・ラスカリス 
          メンテシェ(トルコ人)
  Aグループ2  ジョフロワ(イングランド人)
          アレクシオス・ストラテゴプルス(アレス)
  Bグループ1  イサキオス・ラスカリス
          シルギアネス(クマン人)
  Bグループ2  ティエリ・ド・ルース(フランク人)
          ギヨーム(ノルマン人)

 武闘大会の会場は大盛況で、誰が優勝するか賭けをしている兵士たちもいる。テオドラはまだ療養中だが、プルケリアなどの女性陣も観戦に来ている。全員が観戦できる競技場は用意できなかったので、イレーネの術により野営地の10か所くらいに、離れた場所でも試合の様子が見られるオーロラビジョンのようなものが設置されている。
「では、第1回ローマ帝国武闘大会を開始する。出場者諸君、余の前でその実力を遺憾なく見せて欲しい。皆の健闘を祈る」
 僕による開会宣言を経て、いよいよ試合が始まった。
 第1試合は、戦闘斧を装備したテオドロス・ラスカリス対、三日月刀を装備したメンテシェ。
 この試合は、パワーで勝るテオドロスが終始優勢に戦いを進め、メンテシェもよく粘ったものの、開始5分でメンテシェが剣を弾き飛ばされ、負けを認めた。メンテシェを応援していた、新参のトルコ人兵士たちは残念がっていたが、メンテシェも十分戦力にはなりそうだ。
「見たか! これがビザンティオンの聖戦士、テオドロス・ラスカリス様の力だ! 優勝はこの俺様が頂だぜ!」
 テオドロスがそう勝ち誇っていた。でも、次の相手はおそらく、以前テオドロスと互角に戦ったことのあるアレスだぞ。そう上手く行くかな?
 第2試合は、戦闘斧を装備したイングランド出身の傭兵隊長ジョフロワ対、長剣を装備したアレス。この勝負は、アレスのスピードにジョフロワがついて行けず、開始3分でアレスがジョフロワの戦闘斧を叩き落とし、アレスの勝利となった。ジョフロワも決して弱いわけではないのだが、相手が悪かったとしか言いようがない。
 第3試合は、テオドロスの弟で15歳になったばかりのイサキオス・ラスカリスが戦闘斧で臨み、対するダフネの副将シルギアネスは剣をもって臨んだ。この試合は激戦となり、若さとパワーで勝るイサキオスが優勢かと思われたものの、シルギアネスもよく踏ん張り、制限時間の20分を経過しても勝負は付かなかった。兵士たちに夜判定が行われ、7対3くらいでイサキオスを支持する兵士たちの方が多かったため、イサキオスの勝利と判定した。シルギアネスを応援していたダフネは、とても残念がっていた。  
 第4試合。元十字軍戦士のティエリ・ド・ルースが大剣を持って臨み、対するノルマンディー出身のギヨームは戦闘斧を持って臨んだ。この戦いではティエリが圧倒的な強さを発揮し、開始5分でギヨームは負けを認めた。これは凄い。ティエリならテオドロスともいい勝負になりそうだ。

 準決勝第1試合。お馴染みのテオドロス対アレス。
「アレスか、相手に不足はない。今日こそお前に勝って、このビザンティオンの聖戦士、テオドロス・ラスカリス様が真の最強戦士であることを知らしめてやる」
「私も簡単には負けませんよ、テオドロス」
 山賊だった頃に比べ、アレスの言葉遣いは最近紳士的になってきている。ごつい感じのテオドロスと異なり、顔立ちも整っているアレスは女性たちに人気があるらしく、女性陣の間ではテオドロスよりアレスを応援する声の方が大きい。アレスがいろんな女性と浮名を流しているとの噂も聞いている。
 以前にも一騎討ちをしたことのある2人の戦いは、予想どおりの激戦となった。レベルの高い勝負に会場の兵士たちは固唾を呑んで見守ったが、開始19分、テオドロスの強力な攻撃を受け止め続けるのに体力を使い果たしたアレスが負けを認め、テオドロスの勝利となった。
 勝ったテオドロスも、最初の試合のように勝ち誇るほどの余裕はなかったらしく、決着後2人は握手を交わし、アレスはテオドロスに「決勝戦での健闘を祈ります」と述べた。
 準決勝第2試合。イサキオス対ティエリだが、これは戦う前から勝負が予想できた。
 イサキオスもよく頑張ったものの、まだ15歳で初陣前のイサキオスと、20歳を少し過ぎた若年ながら歴戦の元十字軍戦士でもあるティエリとでは年季が違う。開始5分でイサキオスは戦闘斧を剣で弾き飛ばされ、ティエリの勝利となった。

 決勝戦。テオドロス・ラスカリス対ティエリ・ド・ルース。これも、どちらが勝つか分からない激戦となったが、開始18分でティエリの剣が折れてしまい、テオドロスの勝利となった。
「ティエリ、お前のことはただのラテン人と侮っていたが、大したものだな。お前の剣が貧弱でなければ、このテオドロス・ラスカリス様も危ないところだったぜ」
 テオドロスの言葉に対し、ティエリは渋々といった感じで負けを認めるも、何か言いたそうなことがあるようだった。ティエリは、まだギリシア語が十分に話せないのだ。
「ティエリ、何か言いたいことがあるなら、僕に言ってごらん。僕なら、ギリシア語でなくても通じるから」
 すると、ティエリはおそらく地元の言語で、このように答えた。
「騎士の本分は馬上槍試合。馬上での勝負なら彼には負けない」
 僕がテオドロスに、ティエリの言葉を通訳してやると、テオドロスはこう答えた。
「ならば明日、お前の言う馬上槍試合で勝負してやる。俺は馬上でも負けないぜ」
 いずれにせよ、第1回武闘大会の優勝者はテオドロスに決まったので、勲章と副賞の賞金はテオドロスに授与したが、その翌日に特別試合として、テオドロスとティエリの馬上試合が行われることになった。得意の戦闘斧を持ったテオドロスと、馬上槍を持ったティエリの勝負は、ティエリの突撃を受けたテオドロスが一撃で馬から吹っ飛ばされてしまい、ティエリの勝利となった。最強の面目を潰されたテオドロスは、かなり悔しそうだった。
 新参者を含め、将たちの強さや適性はある程度分かったし、兵士たちの親睦もある程度深まったし、まあイベントとしては成功かなと思っていたところ、トルコ人の動向を調べていたニケフォロス・スグーロスから、『通話』の術で僕のところに急報が入った。
「神聖術学士、ニケフォロス・スグーロスから、ミカエル・パレオロゴス殿下にお伝えします。殿下、今お話しして大丈夫でしょうか?」
「こちらミカエル・パレオロゴス。こちらは大丈夫だ。何があった?」
「一大事でございます! たった今、トルコのスルタン、カイ=ホスローが、10万の軍を召集し、帝国領スミルナに向けて出陣の支度を整えているとの情報が入りました!」

第18章 緊急事態

 馬上槍試合の翌日、僕は軍の幹部たちを集めて、緊急の作戦会議を開いた。
「昨日、ニケフォロス・スグーロスと、ニケーアにいるゲルマノス総主教から、ほぼ同じ内容の緊急連絡が入った。イコニオンにいるトルコのスルタン、カイ=ホスローが、10万の軍を召集し、わが国のスミルナを攻略目標として出陣の支度を整えているそうだ。この事態に至っては、予定していたロードス島への攻撃は当面中止し、トルコ軍の迎撃に全力を注ぐ他はない」
 僕が沈痛な面持ちで、全員に向かって説明する。それを聞いて、まずマヌエル・コーザスが真っ先に発言した。
「トルコ人は、タタール人に敗れたばかりで大打撃を受けているはず。トルコ人のどこに、一体そんな力が残っていたというのですか?」
「ゲルマノス総主教からの報告によると、確かにトルコ人はキョセ・ダグの戦いで、バイジュ・ノヤン率いるモンゴルの大軍に敗れ、モンゴルへの従属を余儀なくされたが、カイ=ホスローは勝ち目がないと分かるとすぐに退却命令を出したため、軍が全滅したというわけではないらしい。そして、フィルズ・ベイからミラスの地が我が軍に奪われたとの報を聞くと、失われた国威を回復するため、ありったけの軍をかき集めてわが国への報復戦に乗り出すことにしたらしい。皮肉にも、モンゴルの属国となったため、モンゴル領に接する東方の守りに兵を割く必要がなくなり、それによって動員できる兵力が増えたらしい」
「しかし、10万という数は明らかに過大ですな。戦争の常として、動員する兵力は誇大に喧伝するものでありますから、良くて話半分と考えた方が良いのではないでしょうか?」
 ラスカリス将軍の指摘に、僕は確かにそうだと思い直した。こんな時にこそ頼れるのがイレーネだ。
「イレーネ、君の術で敵軍の数を調べてくれない?」
「トルコ人は、まだ軍を召集中。出陣する兵の数はまだ確定していないので、正確には答えられない」
「じゃあ、現在の段階で召集に応じている兵の数を教えて」
「了解した」
 イレーネは杖を振って、しばらく目を瞑って念じた後、
「解析完了。現段階でカイ=ホスローの召集に応じる意向を示している兵の数は、合計51,429人。なお、これは戦闘員の数であって、従軍する非戦闘員の数は含まない」
「その兵士たちの内訳は分かる? 歩兵とか、弓騎兵とか」
「兵士たちのうち、スルタンの親衛隊である弓騎兵の数が2,122騎。不死隊と称される親衛隊歩兵の数が5,287人。配下の諸侯が率いる軍勢は、弓騎兵が3,922騎、突撃騎兵が1,412騎、歩兵が8,486人。それ以外は緊急に徴募された農民兵」
「詳細な報告ありがとう。そうすると、まともな訓練を受けた兵士の数は歩兵騎兵合わせて合計21,229人で、残る30,263人は農民兵ということか」
「それはちょっと違いますぞ、殿下」
 ヴァタツェス将軍がそう指摘してきた。
「どう違うんですか?」
「トルコ人のうち、質の上で脅威となるのはほぼ弓騎兵だけでございます。スルタンの不死隊というのは名前だけは強そうに感じますが、実態は戦死者が出るとその度に欠員を補充しているだけで、歩兵としての練度はさほど高くありません。しかも、不死隊の多くは殿下と戦われたマイアンドロス河畔の戦い、タタール人との戦いで多くの死者を出しているはずですから、その大半は新兵と考えて宜しいかと。しかも、確か不死隊の定数は1万人でございますから、その定数すら埋められないとなると、敵側の状態はかなり深刻ですな。なお、諸侯が率いる歩兵隊というのも、これまで私がトルコ人と戦ってきた経験に照らし、大した敵ではありません。同数の兵で戦えば、ヴァリャーグ近衛隊はもちろんのこと、殿下の編成されたファランクス隊にも到底敵わないでしょうな」
「そうですか。では突撃騎兵というのは?」
「文字どおり、敵軍に突撃を掛けるために編成された、重武装の騎兵隊のことです。もっとも、ティエリ殿の率いるラテン人の騎士隊に比べれば装備も貧弱で、練度も大したことはありません。せいぜい、我が軍の軽騎兵隊よりは少し強い程度です」
「とは言え、ヴァタツェス将軍。いかに質は低いと言えども、我が軍の2倍以上ともなる大軍で一気に攻めて来られれば、かなりの脅威となります。正面から戦うのではなく、大軍の利を生かしにくい山岳地帯に砦を築いて、敵を消耗させるのが最上の策かと考えられますが」とラスカリス将軍。
「砦を築くといっても、敵の予想進路は分かるのですか?」と僕が尋ねると、
「分かりますぞ。攻略目標がスミルナということは、トルコ軍の通る道は大体同じですからな」とヴァタツェス将軍。
 他にも将校たちはいるが、僕自身も含めてそのほとんどは若手であり、このような場合の戦略はベテランのヴァタツェス将軍とラスカリス将軍に任せるしか無かった。結局、ヴァタツェス将軍の発案で、トルコ軍の通過が予想される山岳地帯に合計7つの砦を築き、互いに連絡を取り牽制しあって敵を防ぐという作戦が決まった。僕は作戦を主導するというより、複数の砦でどのように敵を牽制するのか、具体的な方法をヴァタツェス将軍に教わる立場だった。

 作戦が決まったので軍を動かすことになったのだが、その段階でようやく気絶状態から回復したテオドラが僕に文句を言ってきた。
「なんで、あたしが休んでる間に、面白そうなこと勝手に進めてるのよ! あたしも、あのヴァリャーキーが吹っ飛ばされるところ見たかったのに! ちゃんとあたしにお詫びしなさい!」
「お詫びって、具体的に何をすればいいの? 謝ればいいの? それとも何か欲しいの?」
「みかっちは、主人であるあたしに対するお詫びとして、疲れたあたしの身体をマッサージしなさい。ご主人様にご奉仕するのは、奴隷としての義務よ!」
 なんだかよく分からないが、とりあえずはテオドラの言うとおりにするしかなさそうだった。

「ああああん、いやああああん、みかっち、そこらめええええん!・・・」
 なんかテオドラが嬌声を上げているが、別に僕はエッチなマッサージをしているわけではない。ルミーナに教わったとおりのやり方で、うつぶせになったテオドラの身体にオリーブオイルを塗った上で、背中とか腰とか、太ももとかのあたりをマッサージしているだけだ。もっとも、テオドラが一糸まとわぬ裸の姿というのは問題があるけれど。
「殿下は、マッサージの素質がおありですね。皇女様も、ルミーナがするときよりも気持ち良い声を上げておられますよ」
「そうなの? というか、女の子って背中のあたりなんかをマッサージされるだけで、そんなに気持ちよくなるものなの?」
「なりますよ。これで殿下も、女の子に関する知識が1つ身に付きましたね。でも、いくら皇女様がお綺麗だからといって、マッサージの最中にプリアポス様をそんなに大きくされるのは宜しくないですね。マッサージが終わったら、ルミーナと一緒に子作りしましょうか?」
「いや、いい」
 僕のマッサージで相変わらず嬌声を上げているテオドラを見ながら、僕は心の中でため息をついた。これから大変な戦争が始まるというのに、僕は何てことをやらされているんだろう。
 その晩、例によってイレーネが僕の許を訪ねて来たので、いつもご奉仕してもらっているお礼も兼ねて、イレーネにも同じマッサージをを試してみた。イレーネは大きな声を上げることこそなかったが、慣れていない刺激にイレーネの身体が激しく反応しており、僕はそれだけで、何かとてもいけないことをしているような気分になった。何か、戦争に関する知識のついでに、おかしな知識も身に付いてしまった。

 話がちょっと脱線してしまったが、僕は山岳地帯に軍を進め、守りに適した要所に7つの砦を建設させた。第1砦は僕が陣取る本陣で、第2砦はアレス、第3砦はネアルコス、第4砦はティエリ、第5砦はダフネ、第6砦はヴァタツェス将軍、第7砦はメンテシェが防衛を担当している。もっとも、7つの砦は臨時に作った移動拠点で結ばれており、どこかの砦が攻められたときには、直ちに他の砦から救援を送れるようにしてある。
「殿下。この周辺には、1000年ほど前にローマ帝国がアフロディスアスという町を作ったと言われているのですが、それらしきものは見当たらないですね。長い年月の間に、地中へ埋もれてしまったのでしょうか」
 砦の建設作業中、僕に随行しているパキュメレスがそんなことを言ってきた。
「そういう記録でもあるの?」
「はい。お師匠様から聞いた話ですが、古い歴史書にはこの周辺にアフロディスアスという町があって、立派な劇場や競技場などもあり、美しい彫刻なども飾られていたそうです」
「今では、ほとんど人の住んでいない土地になっているけど、昔はそういう時代もあったんだね」
 とりあえず、僕は建設中の砦群に、アフロディスアスという名前を付けた。
 総大将の僕としては、砦が完成する前にトルコ軍が攻めてきたらどうしよう、トルコ軍が別の方向から攻めてきたらどうしよう、ここで戦っている間にアンリが休戦協定を破って攻め込んできたり、あるいは他の敵が攻めてきたらどうしようなどと不安で一杯だったが、そうした不安はすべて杞憂に終わり、すべての砦が完成した後、確かにトルコ軍はこの地へやってきて、陣を張った。敵の数は夥しいもので、僕は敵陣を見るだけで震えが止まらないようになってしまった。
 一方、ようやく合流してきたテオドロス・マンカファースは、敵に対する強襲を主張した。
「異教徒など恐れることはありません! 7つの砦から一気に攻め下れば、敵を壊滅させるのは造作もないこと。このマンカファースが先陣を務めましょう!」
「その策はあまりにも危険過ぎる。少なくとも現段階では採用できない」
 僕がマンカファースの提案を却下すると、マンカファースはならば自分の軍だけでも敵を蹴散らして見せると言って聞かず、僕やヴァタツェス将軍、ラスカリス将軍などの制止にも耳を貸さず、ある夜、自分の配下約1000人の狂信者集団だけで、僕に無断で敵に夜襲を掛けてしまった。マンカファースの軍は、当初農民兵たちを殺しまくって調子に乗っていたが、やがて敵の主力による反撃を受け、多くの損害を出して砦へ戻ることなく自領へ逃げ帰ってしまった。
 マンカファースの軍を蹴散らして勢いづいたトルコ軍に対し、僕はニケフォロス・スグーロスを使者として派遣して和平交渉を申し入れたが、スルタンの返答は和平の条件として、フィルズ・ベイから奪った土地のみならず、スミルナとその町以南の全ての領土を割譲するよう要求してきたため、交渉は決裂に終わった。
「駄目でした。スルタンのカイ=ホスローは、マンカファースの軍を破って既に勝った気になっているようです。将兵たちもお祭り気分になっています。その一方で、カイ=ホスローと従軍しているフィルズ・ベイとの関係は悪化しているようです」
 使者に出したニケフォロスがそのように報告してきた。ニケフォロスを使者に送ったのは、彼がこうした観察眼に優れているからである。同じ使節でも、身分が高いだけが取り柄のテオドロス・イレニコスとはこのあたりが違う。
「どうして?」
「どうやらカイ=ホスローは、我が国からミラス周辺の領土を取り返しても、それをフィルズ・ベイに返す気はないようで、それにフィルズ・ベイが腹を立てているようです。他の将たちも、既にわが国から領土を奪うことを前提に、奪った領土の分配をめぐって言い争いを始めています」
「ご苦労だった。今後も敵に探りを入れてみてくれ」
 何となく付け入る隙が出て来たように思われたが、それでもトルコ人の大軍を相手にする僕の不安は収まらなかった。

 僕が、砦の中で不安に駆られつつ、久しぶりにマリアに会いたいななどと埒もないことを考えながら眠りに就くと、次の日僕は、久し振りに日本で目を覚ましていた。この日本では、ビザンティン世界と違って敵の大軍に襲われる心配などはしなくてよい。学校で久しぶりに何もない平和な1日を過ごそうなどと考えて、いつもの通り授業に臨んだ。戦場でも教科書などを持ち歩いて、少ない時でも1日1時間くらいは授業の復習などをしているので、授業について行けないということは無い。
 今日も、何事もない学校での一日が終わるかと思われた放課後のホームルームにて。クラス委員長の中崎さんから、「では、昨日の予告どおり只今から席替えを行っていただきます」との報告があったとき、そう言えばそんな話もあったなと、僕は今更のように思い出した。日本世界では昨日の話でも、僕にとっては半年近くも前の話なので、席替えのことまで覚えていなかったのだ。
 席を決めるくじ引きが始まったが、僕はくじ引きの対象とならず、新しく座る席はもう決められていた。そして、僕の隣に座るのは、あのマリアそっくりの湯川美沙さんだった!
 どうしよう。心臓がバクバクして、冷や汗が止まらない。あの湯川さんが隣に来たら、一体僕はどう対処すればいいんだろう。僕が錯乱しかけたときに、
「まずはきちんと挨拶することからだよ。頑張って、お兄ちゃん」
 例の不思議な声が聞こえてきた。そうだ、ここは最初にきちんと挨拶をして、今までの悪い印象を克服することだ。僕は少しだけ落ち着きを取り戻した。

 僕は自分の席を所定の場所に移動し、湯川さんも僕の隣の席に移動してきた。そんな湯川さんに僕が挨拶しようとすると、なんと先に湯川さんの方から挨拶してきた!
「ゆ、湯川美沙、なのです。・・・これから、宜しくお願いします、なのです」
 顔だけでなく、声や喋り方までマリアにそっくりだった湯川さんの挨拶に内心驚くも、僕は何とか挨拶を返した。
「さ、榊原雅史です。こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
 ちなみに、榊原雅史というのは、日本の世界における僕の名前。読み方は「さかきばら まさひと」である。日本世界での僕なんかどうでもいいと思っていたので今まで名前は出さなかったが、誰かさんに『名無しの権兵衛』などとからかわれるのはもう御免なので、一応名前を出しておく。
 挨拶は無事終わったものの、二人とも無言になってしまい会話が続かない。ここは何でもいいから話を切り出さないと。
「ゆ、湯川さん。君と話すのは初めてだけど、ちょっと変わった喋り方だね。何でも『なのです』って付ける感じで」
「す、すみません・・・なのです。その、小さい時からの癖で、最後に『なのです』って付けないと、何となく舌がよく回らない、なのです」
「いや、別に謝ることじゃないよ。僕も湯川さんと似たような喋り方をする人を知っているし、その喋り方、何というか、すごく可愛くて良いと思うよ」
 僕がそう言うと、湯川さんは顔を真っ赤にして、
「か、可愛い、なのですか? わたし、そんなこと言われたこと、これまで一度もないのです。言われるのは、喋り方がおかしい、だけなのです」
 どうしよう。湯川さんすごく可愛い。もし許されるならこの場でマリアみたいに抱きしめたい。僕はそんな気持ちを辛うじて抑えて、
「うん、独特な喋り方も1つの個性だから、自信を持っていいと思うよ」
 放課後の挨拶でこれ以上の長話をするのもおかしいので、僕は「それじゃあ、湯川さん、明日からよろしくお願いします」と言って湯川さんと別れた。学校を出て自転車で帰路に就いている間も、僕の心臓はバクバクとしていた。それでも、僕にとって最大の緊急事態は、何とか乗り越えられたのだ。

第19章 決戦

 ビザンティンの世界に戻った僕は、すっかり平静を取り戻していた。奇妙な話だと思われるかも知れないが、緊張しまくった湯川さんとの初会話に比べれば、士気に緩みの見えるトルコ軍との戦いなど何でもないように思われたのだ。
 こちらは、引き続きニケフォロス・スグーロスを和平交渉の使者に送って、何とかミラス周辺の返還だけで勘弁してくださいと下手に出て、交渉を進めさせた。敵はもう戦わずして目的を達成できると思い込み、トルコ軍が砦に攻めかかってくることは無かった。
 一方、テオドロス・ラスカリスをはじめとする数人の将たちが、僕の許を訪れて直談判に及んできた。
「俺様はマンカファースじゃないけどな、トルコ軍の奴ら昼間から宴会なんかやってたぞ。今なら、このビザンティオンの聖戦士・テオドロス・ラスカリス様が先頭に立って強襲を掛ければ、トルコ軍に大打撃を与えられると思うぜ」
「私アレスも、テオドロスの意見に賛成致します。最近は歩哨すらもろくに立てず、特に夜間などは全くの無警戒です。あんな連中に、これ以上下手に出る必要はないでしょう」
 他の将校たちも概ね同意見で、慎重派で知られるマヌエル・コーザスでさえも、主戦論を唱えるようになった。僕は彼らの意見にこう答えた。
「確かに、トルコ軍はかなり油断している。今攻撃を掛ければ、確かに敵に大打撃を与えることができるだろう。しかし、それでは残った敵が態勢を立て直して、再び攻めかかってくる。もっともっと敵を油断させ、ただ一度の攻撃でトルコ軍を壊滅に追い込むのだ」
 そして、僕はテオドラ、イレーネ、プルケリアも交えて、トルコ軍に対する夜襲作戦の具体策を練り、将兵たちにその準備をさせた。その準備が概ね整ったところで、僕は自らトルコのスルタンの許へ使者として赴き、わざと脅えたふりをして和平を懇願して見せた。スルタンはますます調子づいており、スミルナ以南の土地の割譲を要求するだけでは飽き足らず、ローマ帝国そのものがスルタンの属国となり貢納金を支払うよう要求してきた。
 僕は、「検討させて頂きます」と返答し、悄然としたふりをして帰途に就いたが、その途中である男に呼び止められ、短剣を突き付けられた。ネックレスがあるので簡単に殺されることは無いだろうが、相手は黒ずんだ顔立ちの精悍な若者である。全く怖くないと言えば嘘になる。
「そなたは、余を殺すつもりか?」
「殺すつもりはない。ただお前と、取引をしたいだけだ」
「そんな取引だ」
「お前は、何か企んでいるだろう。他の連中は気付いていないが、この俺には分かる。この俺が、お前の企みに協力してやろう」
「どのように協力してくれるのだ?」
「スルタンのカイ=ホスローは、フィルズ・ベイと対立し一触即発の状態になっている。そこで、俺とその仲間たちが、今夜フィルズ・ベイが裏切ったと噂を流してやろう。そうすれば、味方は混乱し同士討ちが始まる。お前は労することなく勝利を掴むことが出来るだろう」
「その強力の対価として、お前は何が欲しいのだ?」
「俺を、お前の将として取り立ててくれ。俺は、トルコ軍では一兵卒としての扱いしか受けていない。このままトルコ軍にいても、俺はほとんど一生出世できないだろうからな」
「分かった。作戦が成功したら、お前を一軍の将として取り立ててやろう。最後に、お前の名前は何と言う?
「俺の名は、ジャラールッディーン・イブン・メングベルディーだ。呼びにくければジャラールと呼んでもらって構わない」
 ジャラールという言葉に僕は思わず反応したが、ここでは名前の問題を問い詰めている暇はない。
「分かった。お前のその仲間たちは、僕の味方に遭遇したら自分はジャラールの一党だと伝えるように言い含めておけ。お前が仲間であることは全軍に周知させておく」
 こうして僕はジャラールと別れ、砦に戻った。

 僕は、将校たちを集めて軍議を開いた。
「予定どおり、本日の深夜に総攻撃を行う。自分でも敵陣の様子を見てきたが、確かにトルコ軍は油断しきっている。成功は疑いない。それに加えて、皆の者に伝えておきたいことがある」
 僕の言葉に、将校たちが改めて僕に注目する。
「トルコ軍の中に、ジャラールという若者とその一党が、我が軍への協力を申し出ている。彼らは、トルコ軍のフィルズ・ベイが裏切ったとの噂を流し、敵軍を混乱させると申し出ている。我が軍もその策に乗り、トルコ語の話せるメンテシェとその配下は、総攻撃に先立ちフィルズ・ベイが寝返ったと触れ回ってもらいたい」
「承知いたしました。幸い我らの軍装はトルコ軍のものと変わりませんので、我らが噂を流せば敵も信用するでございましょう」とメンテシェ。
「ところで、そのジャラールというのは何者なのですかな? あのモンゴル軍と最後まで勇敢に戦ったという、ホラズム王ジャラールと何か関係があるのですかな?」とヴァタツェス将軍。どうやらこの世界でも、ジャラールの名は結構知られているらしい。
「残念だが、そこまでは確認する時間が無かった。首尾よく戦いに勝ったら彼を一軍の将として取り立てる約束になっているので、その際にでも話を聞くとしよう」
「それでは、味方の同士討ちを防ぐための合言葉は、ジャラールにしておきましょう」とラスカリス将軍。
「そうしておこう。あとやるべきことは・・・。そうだイレーネ、現時点での敵軍の数を調べてくれる?」
 僕の言葉にイレーネは無言で頷き、杖を振りかざした。
「現時点における敵軍の数は、39,654人、訂正、39,653人、再度訂正、39,651人」
「もういい。それより、なんで敵軍の数がそんなに減っているの? 出陣前の予定では5万人を超えていたのに」
「実際には召集に応じなかった者たちがいるため、出陣時における兵士数は49,512人。その後、行軍中の事故、疫病、マンカファース軍の襲撃などで徐々に数を減らしている。現在数が減っているのは、酔った兵士たちが武器を持って喧嘩騒ぎを起こしているのが原因」
「なんか、しょうもない連中だね」
「イレーネ様、私から質問宜しいですかな?」とヴァタツェス将軍。
「質問を受け付ける」
「今のお話だと、敵軍の数は既に4万を割っているとのことですが、私が見た限りトルコ軍の陣営にいる人数は5万人を超えていると思われるのですが」
「貴方の見方は間違っていない。現時点での敵軍の数は39,649人だが、それ以外にも合計13,558人の非戦闘員が随行している」
「なんでそんなに多くの非戦闘員がいるの?」と僕。
「スルタンのカイ=ホスローは、遠征中でも宮廷と変わりない生活を送るため、妃や妾たち、身の回りの世話をする使用人たち、それに加えてスミルナまで自らの領土に加えることを前提に、多くの知識人や技術者たちまで引き連れている」
「捕虜にすれば役に立ちそうな人たちもいそうだね。とりあえず、今回の戦闘では、抵抗せず降伏する者は殺さないこと、武器を持っていない者は殺さず捕らえることにしよう。今日の軍議は以上。皆、夜までしっかりと休んで、今夜の攻撃に備えてもらいたい」

 その夜。作戦は実行に移された。
 メンテシェ・ベイとその配下たちが、トルコ軍の陣営に火を放ちながら「フィルズ・ベイが裏切ったぞ~!」と触れて回る。別の場所でも似たようなことをしている一団がいるので、たぶんあれがジャラール一党だろう。案の定敵軍は大混乱に陥り、壮絶な同士討ちが始まっている。そろそろ総攻撃を掛けてもいいだろう。
 第1砦の上から指揮を取っている僕は、側にいるテオドラに呼び掛けた。
「テオドラ、攻撃頼む」
「ついにあたしの出番ね! 見ておきなさい!」
 テオドラは、わざわざ『拡声』の術を使い、トルコ軍に向かってこう呼びかけた。
「あたしこそが、世界最高の美女にして、最も高貴なる緋産室の生まれ、そして世界最強の術士たる太陽の皇女、テオドラ・アンゲリナ・コムネナよ。このあたしの力をとくとご覧なさい!」
 そして、テオドラは例のエクスプロージョンを、トルコ軍の陣営に10発ほど連続で撃ち込んだ。陣営のあちこちで大きな爆発が起こり、トルコ軍はさらに混乱に陥る。そしてこれを合図に、各砦から将兵たちが一斉に出撃した。統制のしっかり取れているローマ軍と、大混乱に陥っているトルコ軍との戦いは、
もはや戦闘というより一方的な虐殺だ。武闘大会で活躍した勇将たちはもちろん、初陣のペトラルファス、そして武芸訓練中のユダまでもが戦闘に加わり、逃げ回る敵兵たちを次々と倒している。たまに敵兵の反撃を受けて負傷する兵士もいるが、イレーネが素早く治療してくれる。やがて、
「敵将フィルズ・ベイ、このメンテシェが討ち取ったり!」
「敵将カイ=ホスロー、このジャラールッディーンが討ち取ったぜ!」
 そんな声が聞こえると、トルコ軍は戦意を失い潰走を始めたが、その先には別の砦にいるプルケリアが作った氷の壁があり、先に進めない。その一方で、戦場の北方にある小さな川の上に、同じくプルケリアが作った氷の橋が作られており、逃げようとするトルコ兵たちはその氷の橋に向かって殺到したが、あまりに多くの人間が殺到したので、味方に押し潰されて圧死する者、誤って崖から転落する者も少なくない。何とか氷の橋にたどり着いた者も、滑りやすいので次々と橋の上から転落する。あの高さから見て、転落した者はまず間違いなく即死だろう。
 そして、プルケリアが氷の橋を消すと、何とか橋を渡ろうとしていた兵士たちは敢え無く転落死。日が昇ってきた頃には、生き残ったトルコ兵たちは抵抗を諦めて降伏し、戦闘の決着が付いた。
「イレーネ、敵味方の犠牲者数の集計を頼む」
「敵軍の死者、戦闘員及び非戦闘員を合わせて30,968人。逃走に成功した者はゼロ。味方の死者は1人」
「惜しい! 大勝利ではあるけれど、今一歩のところで完全勝利を逃しちゃったね」
 やっぱり、これほど大きな戦いで完全勝利というのはさすがに難しいのか。しかし、イレーネは僕以上に悔しがっていた。
「・・・負傷兵たちを治療できなかったのは、私の責任」
「そんなに気に病むことはないよ。これだけの戦いで味方の犠牲者が1人で済んだのであれば、むしろ上出来だから」

 続いて、戦後処理の仕事が僕を待っていた。まずは、スルタン・カイ=ホスローの首を持って参上したジャラールとの謁見。
「また会ったな。俺を帝国の将として迎えてくれるという約束、しっかり守ってくれるんだろうな?」
「もちろんだ。ところでジャラール、君はモンゴル軍との戦いで有名なホラズム王のジャラールと何か関係があるのかい?」
「俺は、そのホラズム王ジャラールの息子だ。親父の名は、ジャラールッディーン・メングベルディー。そして俺の名は、ジャラールディーン・イブン・メングベルディー。単に親父の息子って意味さ。もっとも、親父は俺が産まれる前に殺されたんで、親父の顔なんて見たことも無いし、ホラズムなんて国も見たことねえけどな」
「ジャラール様の生い立ちについては、この私がご説明させて頂いても宜しゅうございますか?」
 ジャラールの脇に控えていた、見たところ40代くらいの側近の一人が、そう口を挟んできた。
「そなたは?」
「私の名は、シハーブッディーン・ムハンマド・アン=ナサウィーと申します。単にナサウィーと呼んで頂いて結構でございます。亡きジャラール王には、王がインドから帰国された頃からお仕えさせて頂いておりました。ジャラール王はモンゴル軍に対抗するため各地を転戦されておられましたが、私がお仕えした頃には、モンゴル軍との戦いにより、ジャラール王の男子は皆モンゴル軍に捕らえられて殺され、その兄弟も皆モンゴル軍に殺され、ホラズム王家の生き残りはジャラール王のみになってしまっておられました」
「ふむ」
「そこで私は、ホラズム王家の血を絶やさぬよう、ジャラール王に跡継ぎを作って頂くため、奴隷女をお勧めしておりました。ジャラール王は、残念ながらクルド人の手によって殺されてしまいましたが、その数か月後、ジャラール王の寵愛を受けた奴隷女が待望の男子を出産致しました。本来であれば王家の一族に相応しい新たな名前を付けるところなのですが、既にジャラール王はこの世になく、私めは他の者と協議の上、生まれたばかりの王子に、亡きジャラール王の息子という意味でジャラールディーン・イブン・メングベルディーと命名したのでございます」
「その成長した子供が、今ここにいるジャラールというわけ?」
「左様でございます。私は、アジアの地に潜伏し、亡きジャラール王に関する伝記をまとめつつ、ジャラール様を密かにお育てしておりましたが、ジャラール様が無事成人に達せられたので、再起の一環としてイコニオンのスルタンに仕官を求めたのですが、モンゴル軍の不興を買うことを恐れたカイ=ホスローは、ジャラール様や私どもに一兵卒としての地位しか与えてくださいませんでした。そして、ジャラール様は、このまま暗愚なカイ=ホスローに仕えるより、若年ながら『神の遣い』として令名著しい殿下にお仕えしたほうが良いと判断され、私どももそれに従ったのでございます」
 ナサウィーによる説明の後、ジャラールがこう口を挟んできた。
「そんなわけで、俺は確かにジャラール王の息子だが、死んだ親父と違ってホラズム王国の再興なんかに興味はねえ。ただ、貧しい中で俺を育ててくれたナサウィーや他の部下たちに報いるため、俺たち一党の居場所が欲しいだけだ」
「事情はよく分かった。そなたにはローマ帝国の将として、トルコ人たちの部隊を率いてもらうつもりだ。亡き父上の名に恥じない活躍を期待している」

 こうして、ジャラールは僕の配下に加わった。続いて捕虜たちの処遇に移ったが、捕虜のうち兵士たちは約9千人。全員を配下に加えると維持費の限界を超える恐れがあったので、弓騎兵約1000人と、比較的訓練されており戦力になりそうな歩兵約1000人を配下に加え、残りの兵士たちは、このアフロディスアスの戦いの様子を若干誇張して、他のトルコ人たちに知らせるよう言い含めた上で釈放した。なお、僕の配下に加わっても正教への改宗を強要されることはないと分かると、僕の配下に加わることを拒んで死を選ぶ者は特にいなかった。
 非戦闘員の捕虜は約1万人。そのうち、亡きカイ=ホスローの妃と娘たちについては、身代金を取るため丁重に保護したが、それ以外の女約4千人については、戦利品としてまだ妻や愛人のいない兵士たちに分配した。功績のあった兵士たちのうち女をもらえなかった者に対しては、スルタンの天幕に残されていた貴重品を分配した。約6千人の男たちのうち、イスラムの法学者、鍛冶職人、建築家、紙漉き工など専門的な知識や技能のある者約2千人は雇い入れ、特に取り柄のなさそうな残りの者は、兵士たちと同様に釈放した。
 そして、僕の配下に加わった者たちについては、祖国から妻子たちを呼び寄せることを認め、次のスルタンに誰が就任するのかは知らないが、新スルタンに対しては妃と娘たちの釈放を条件に、僕の配下に加わった者たちの妻子たちが移住することを認めるよう交渉することにした。この仕事の総責任者にはニケフォロス・スグーロスを任命し、ペトラリファスとナサウィー、その他数十名をスグーロスの補佐にあたらせた。

 そして、まだ少年ながら文才に優れたパキュメレスには、この戦勝を各地に知らせる文書の起草を命じたところ、パキュメレスからこんな質問を受けた。
「トルコ軍の数は、実数どのくらいであったと書けば宜しいのですか?」
「10万と書けばいい」
「でも、イレーネ様の集計によりますと、トルコ軍は出陣した段階で既に5万人を割っており、実際に我々と戦ったときの兵士数は4万人を下回っていたのでは?」
「いいか、パキュメレス。宣伝というものは、事実をありのままに書けば良いというものではない。敵は10万人と号して我が国に攻めて来たのだから、その敵を破った僕たちには、10万人の軍を破ったと主張する権利があるし、ローマ帝国の国威を見せつけるには、そのようにした方がむしろ効果的だ。戦い方についても、余計な策略のことなどは書かず、ただ僕やその配下の勇敢な将兵たちがその武勇でトルコ人たちを圧倒し、10万のトルコ軍はほぼ全滅し、一方で我が軍の死者はたった1人に過ぎなかったと書けば良い。表現の詳細は君に任せる」
「・・・分かりました」
 なお、自分の戦勝を誇大広告するというのは、織田信長もよく使っていた策だ。例えば長篠の戦いでは、敵の総大将は武田勝頼であったのに、西国向けに敵将武田信玄を討ち取ったと宣伝し、信玄塚という首塚まで作らせたりしている。宣伝も戦争の一部であり、戦争は敵を欺くことなのだ。

 その日の夕方、夜戦とその後の戦後処理で疲れ果てた僕は、いつもより早めに眠ろうとしたが、その前にイレーネがやって来た。
「貴方に、神聖結晶が3個届いている」
「なんで? 今回は完全勝利じゃないのに」
「味方の死者1名の死因を調査した結果、その死者はあなたの直属軍ではなく、ヴァタツェス将軍配下の私兵であり、死因も敵と戦っての戦死ではなく、ヴァタツェス家の内部的事情による暗殺と判明した。彼の死はあなたの責任ではなく、今回の戦勝は実質的な奇跡と認定された」
「そうなんだ」
 わざわざ味方の兵を殺すとは、ヴァタツェス将軍の家にも何か複雑な事情があるんだろうが、そのような細かい事情を詮索する気は無い。
 イレーネが手に持っている神聖結晶が割れ、僕の身体が白っぽく輝いた。これで僕の神聖術適性は81になったということか。

 その後、僕はいつものようにイレーネと一緒に眠りに就いた。数で勝るトルコ軍を相手に、アフロディスアスの戦いで初めてまともな金星を挙げた僕は、軍司令官としてもいくらか自信が付いたような気がした。戦いはこれからも続くだろうが、この子が一緒にいてくれればこれからもやって行ける。僕は、側で眠るイレーネの頭を撫でながら、次の戦いに臨む決意を新たにしていた。

(第3話に続く)

<後編後書き>


「最後まで読んで頂き、ありがとうございました。本編の主人公、ミカエル・パレオロゴスです」
「あたしが世界一美しい太陽の皇女、テオドラよ。今回はあたしが大活躍だったわね!」
「ま、まあね。文章的にそれほどインパクトは強くないけど、確かにヴェネツィアの大船団を1人で殲滅したり、トルコ軍にエクスプロージョンで大打撃を与えたりしていたからね」
「その割に、あたしがいまいちメインヒロインとして描かれていないような気がするんだけど。むしろ、あたしよりイレーネとか何も活躍してないメイドとかの好感度が上がったりしてない?」
「・・・そ、そんなことはないよ」
「なんか、最後はきれいにまとめてあるけど、実際にはどうせイレーネに裸で『ごしごし』してもらったり、散々エッチなことをしてスッキリしてから眠りに就いたんでしょう? みかっちは、あたしみたいに美しく上品な皇女様より、エッチなご奉仕をしてくれる性奴隷の方が良いって言うの?」
「・・・別にイレーネのことを性奴隷だとは思っていないけど、まあ僕を挑発するだけで何もしてくれない皇女様よりは、僕のことを気遣って何でもしてくれる女の子の方が良いとは思う。あと、平気でインポテンツとか連呼している君を、上品な皇女様だと思っている読者さんは、正直あまりいないだろうね」
「インポテンツって下品な言葉なの?」
「そうだよ! 君、まさかそれすらも知らないで使ってたの!?」
「インポテンツというのは、男を怒らせる魔法の言葉なんでしょ。どこが下品なのよ」
「テオドラ、どうやら君には正しい性教育が必要みたいだね。やりたくはなかったけど、次の第3話ではきちんとやることにするよ」
「その話題はこのくらいにして、この第2話ではいろんな人が出て来たけど、どのあたりまで史実に即しているの?」
「あまり即していないけど、若干は史実を反映してる。例えばダフネとシルギアネスは架空の人物だけど、ダフネの父親バチュマンは実際にいた人。フィルズ・ベイとイブラヒムは架空の人物だけど、配下に加わったメンテシェとヒジール・ベイは、トルコ人の君侯として一応実際にいた人。ニケフォロス・スグーロスは架空の人物だけど、その父親レオーン・スグーロスは実際にいた人。配下に加わったジャラールは架空の人物だけど、その父親であるホラズム朝最後の王ジャラールッディーン・メングベルディーは、モンゴル軍に徹底抗戦した英雄として有名な人物で、ナサウィーもその人に仕えた書記で、全108章に及ぶジャラールの伝記を書き残したことで知られている」
「そうやって、一応は歴史ものっぽい雰囲気を出してるわけね」
「まあね。登場人物がどんどん増えていくんで、大半が雑魚キャラ扱いで埋没しちゃうのは仕方ないと思うんだけど、何とか多くの人たちに活躍の場を作ってあげたいね。あと、女性の方が総じて才能があるっていう神聖術の設定から、物語が進むにつれてほとんどが架空の人物である女性キャラの活躍が目立ってくると思うんだけど、男性キャラも負けずに頑張って欲しい」
「そう言えば、今回ようやくみかっちの日本名が出て来たけど、あの榊原なんとかってややこしい名前、何か意味あるの?」
「なんとかじゃなくて、榊原雅史だから! 一応、本当のことかどうかは分からないけど、ご先祖様は徳川四天王の一人榊原康政ということになってる。第3話以降では僕の家庭のことについても、少しずつ語られる予定です」
「それで、第1話では自分を三河武士の末裔とか言ってたわけね。でも、本当に、みかっちはエンタメというものがちっとも分かってないわね。どうせ徳川四天王から名前を取るなら、地味な榊原康政なんかじゃなくて、本多忠勝にすればいいじゃない。その方が、格闘もののゲームなんかにも出てきて、すごく有名だし」
「自分の先祖は自分じゃ決められないから! それに、榊原康政だって本多忠勝に劣らない立派な武将だったんだから! 兵の指揮能力は本多忠勝より上だったっていう評価もあるくらいだし」
「・・・でも、みかっちの性格だと、本多忠勝というよりは本多正信って感じになっちゃうわね。戦い1つやるにしても、いちいち陰険な謀略を巡らせて、あんまり格好良くないし」
「・・・テオドラ、意外と日本の戦国武将に詳しいんだね」
「その話は置いといて、次の第3話はまだ簡単なプロットしか出来てないからいつアップできるか分からないけど、今の予定だとあんまり戦争はなくて、あたしが大活躍する話みたいね」
「戦争が無いのに、どうして君が大活躍するの?」
「例えば、あたしとみかっちとでシチリア島に行って海水浴をしたりとか」
「海水浴ってことは、よくある水着回ってこと?」
「この世界に水着なんてないわよ。それに、海水浴は裸でするから気持ちいいんだし♪」
「なんか嫌な予感しかしないんだけど。他には?」
「詳しくは言えないけど、あたしがみかっちにちょっとした悪戯をする話とか」
「ますます嫌な感じしかしない!」
「そんなわけで、第3話ではみかっちがあたしの魅力の前に屈服して、あたしの真の奴隷として覚醒するお話になります」
「そんなこと絶対にあり得ないし、そもそもどういう意味かさっぱり分からないよ!」
「じゃあ皆さん、みかっちが散々いじられる第3話でまたお会いしましょうね」
「もういじられるのは嫌だ~!」


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